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邦画

2012年7月21日 (土)

涼風家シネマクラブ■ろくでなし稼業

監督/斎藤武市
キャスト/宍戸 錠、二谷英明、吉永小百合、南田洋子、金子信雄、ほか。
1961年/日本/53分

 宍戸 錠の主演第一作。
 とある港町に、貨車に無賃乗車してやって来た矢野(宍戸)は同様に貨車から降りてきた黒田(二谷)と意気投合し行動をともにするようになる。そして大栄海運という会社の裏の仕事(ボロ船を故意に沈没させて保険金を搾取する)を引き受けたふたりは、この会社の前社長の息子に成り済まして一儲けしようとするのだが…。
 主演第一作とは思えない宍戸 錠の堂々とした演技が光る一本。金子信雄の悪役もいいし、タイプの違う二谷の共演も成功している。
 今回、この作品と同じ宍戸主演の『早射ち野郎』を続けて観たのだが、キャスティングがよく似ていた。悪役に金子というのはいいとしても、キャバレーの女に南田が両作品で出演していて、両作品とも宍戸にべた惚れしてしまうというところも同じなのは、当時のアクション映画の「お約束」の部類なのだろうか。
 作品に登場する港町(セットの中の)は、貸本劇画の世界を彷彿とさせるが、お互いに影響し合っていたような気がしないでもない(もちろん劇画の方が映画からの影響が強かったはずではあるが)。
 二転、三転するどんでん返しにテンポのいい演出と娯楽映画として楽しめる作品である。

2012年7月19日 (木)

涼風家シネマクラブ■チンパオ

監督/田中新一
キャスト/田村高廣、岩崎ひろみ、金山一彦、大浦龍宇一、徐可心、禹天姿、根岸季衣、ほか
1999年/日本・中国合作/94分

 日中平和友好条約締結20周年を記念して企画された映画である。戦後60年の今あらためて見てほしい作品だ。
 物語は戦時中の中国大陸と、戦後50年が経った熊本が舞台である。戦争中の体験を胸に秘めたまま、故郷の熊本で暮らしてきた相澤(田村高廣)は、忘れられない出来事と、それに深く関わった堀軍曹(金山一彦)の思い出を辿るために、中国・桂林へと旅立つ。
 日本が中国に対して行った戦争という凄惨な行為と、兵士としてその場にいた者が戦後数十年間背負い続けてきた罪の意識がこの映画では描かれる。「戦争」が悪いのであって、ひとりの兵士でしかない主人公が罪を負う必要はないと相澤の孫娘(岩崎ひろみ)は言うが、その戦争をしていたのは自分たち兵士だと答える相澤。そして相澤が戦場で体験した、中国人の幼い兄妹とのエピソードが語られていく…。
 戦争末期、食料も不足しがちな日本軍は周辺の村を襲い食料の略奪を繰り返していた。抵抗した村人を射殺することもあり、中国人からさらに憎まれる日本軍のひとりとして相澤はそこにいた。ある日、村にいた子牛を手に入れた相澤たちだったが、その子牛を育てていた幼い兄妹、チンパオとチンホイは子牛を取り戻そうと日本軍の部隊まで追いかけていくのだった。ふたりを説得し村に帰そうとする相澤だが、兄妹の意志は堅く戻ろうとしない。やがて子牛の世話をするということで部隊内の出入りも許される兄妹だが、戦争は束の間の平和さえ許してはくれない。本隊が苦戦し、朝鮮半島まで転進することとなり、相澤の部隊もその地を離れることになった。敵に追われ逃げるように部隊にやって来た中隊長は、子牛を処分し食料にせよと命令を下す。しかし敵を前に逃げることをよしとしない堀軍曹とのあいだでいさかいが起こり子牛と兄妹を逃がした堀軍曹は、上官に逆らったということで射殺されてしまうのだった。
 人が人としての優しさを見失う、戦場という極限状態の中で体験したこの出来事を、相澤は忘れることなく50年の年月を過ごしてきた。毎年、堀軍曹の墓参りを欠かさなかったが、初めて親族と顔を合わせ、墓の中には遺骨がないこと、上官に逆らったとして親族とは別に見すぼらしい墓が建てられていることを知らされ衝撃を受ける相澤。中国への旅は、堀軍曹の遺骨を探す旅でもあったのだ。
 これは映画であり真実ではない。が、戦争というものの悲惨さ、残酷さをこの映画で考えてみてほしい。
◆DVD発売/JVD

初出/「微熱」05年11月号・セブン新社刊

2012年7月17日 (火)

涼風家シネマクラブ■サマータイムマシンブルース

監督・プロデュース/本広克行
キャスト/瑛太、上野樹里、与座嘉秋、川岡大次郎、ムロツヨシ、真木よう子、永野宗典、本多 力、ほか
2005年/日本/107分

 とある地方の大学にあるSF研究会。そこは元々カメラクラブだった部室で、現在カメラクラブの女の子ふたりは廃部の危機にさらされながら、暗室で活動を続けている。そしてSF研のメンバーをモデルにして作品を撮影することも…。 そんな夏のある日、とんでもない事件が起こってしまうのだ!
 本作品は、劇団「ヨーロッパ企画」が元々舞台で演じていたもの。それを見た本広監督が気に入り、作者である上田誠に映画用の脚本を依頼、制作が始まったということだ。
 そういわれてみると部室を中心にしたストーリー展開など、舞台劇的な雰囲気である。監督は舞台の面白さをなるべく再現したかったようだから、その意味では成功しているだろう。
「タイムマシン」という小道具(大道具か?)を使っているため物語の構成はちょっと複雑である。最初のシーンで起こるいくつかの不思議なことが、じょじょに明かされていくということになるのだが、その中にはラストシーンにつながる部分も含まれている。
 なかなか考証的にSFしてる部分もあるのだが、全体としては出てくる要素のそれぞれがすべてつながってしまうというご都合主義的なところもあって、その意味でも舞台的な印象を受ける。あるいは深夜枠のバラエティーか。ともかく細かいことはヌキにして楽しんでもらいたい映画ということは言える。特別笑いを狙ったシーンというものはないのだが、全体として安心して笑える映画になっているで、何も考えず登場人物たちのドタバタを楽しんでほしい。
 劇中、タイムマシンは25年後の世界からやって来る。大学があるという町をSF研のメンバーたちが案内すると「変わってないですねえ」と未来から来たSF研の後輩はいうのだが、この町がまた都会に住んでる者にとっては懐かしい光景に思えてしまうような場所。ロケは香川で行われたようだが、のどかで実にいいのである。ある意味、この舞台となっている町に観ているわれわれがタイムスリップしてしまっているのかもしれない。

初出/「微熱」05年10月号(セブン新社刊)

2012年7月14日 (土)

涼風家シネマクラブ■花田少年史~幽霊と秘密のトンネル

監督/水田伸生
原作/一色まこと(講談社刊)
キャスト/須賀健太、篠原涼子、西村雅彦、北村一輝、安藤 希、杉本哲太、もたいまさこ、ほか
2006年/日本/123分

 深夜枠でテレビアニメ化もされた同名コミックの実写映画です。
 夏休みの公開だけに幽霊が出てくることを強調している印象があるけれども、内容自体は親子、家族の愛を描いています。
 主人公の花田一路は、母親と大喧嘩するようなわんぱく坊主。しかし交通事故で頭を打ってから、幽霊が見えるようになってしまいます。そして、幽霊たちが、現世でできないことを一路に頼みに来るのです…。
 物語は一路の両親の過去や、親友・荘太の母と、クラスの女傑・ケイの父の再婚にまつわるエピソード、一路に近づく「本当の父」と名乗る弁護士の幽霊、そして一路の近くでなにかと助けてくれる香取聖子という女子高生の幽霊が絡み合って、少年・一路が成長していく姿を描いています。
 ときには笑わせ、ときには脅かし、そしてクライマックスでは涙を誘う、家族で鑑賞できる作品といえるでしょう。
 ところで、弁護士の幽霊として登場する北村一輝、どうも顔と名前が覚えられないわたしは「見たことあるなあ」なんて感じだったのですが、ふと不気味な笑みを見せるシーンがあり、思い出してしまいました。『ゴジラ・ファイナル・ウォーズ』で「X星人」を演じていたではありませんか。今回も人間役ではありませんでした。しかしイケメンでありながら、宇宙人やら幽霊やらになりきっちゃう北村一輝、なかなかイイですね。
 篠原涼子の母親役も、どうかなという感じだったのですが、観ていて違和感なく母親を演じていました。が、やっぱりルックスのキレイさと若さは、最後まで「母親」という実感を出せなかったところも。演技の面でよかっただけに残念です。
 主人公・一路を演じるのは『ALWAYS 三丁目の夕日』の須賀健太。坊主頭にした彼は、原作コミックの印象そのままという感じです。
 8月19日、全国公開。家族そろって映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか? ちょっと温かい気持ちになれると思います。

「微熱superデラックス」06年8月号掲載

2012年7月10日 (火)

涼風家シネマクラブ■ニュータウン物語

監督/本田孝義

 岡山県にある山陽団地。ここが監督の本田孝義が育った街である。大学進学と共に東京に出て以来ほとんど帰ることのなかったその場所に、監督はカメラを携えて戻ってきた。
 高度成長期にあって「ニュータウン」は希望の街として注目を浴びていた。それがいつしか批判の対象となり、現在では高齢化が進む深刻な状態だ。
「ニュータウン」育ちの監督が、「ニュータウン」とはなんだったのかを問う、というと大上段に構えすぎだろうか。しかし結果はどうであれ、当初の興味はそのことだったようだ。そして旧友たちに再会しながら当時の「ニュータウン」のイメージを探ることから始めていく。
 そう、これはドキュメンタリーなのである。監督はこの作品の前にも『科学者として』というドキュメンタリーを制作する一方、美術館で作品を発表するなどしている映像作家。
 作品中、監督自身が「自分の影を探しているのかもしれない」と独白しているように、映画は「ニュータウン」の姿を描きながらも監督自身の生い立ちをなぞっていく。
 山を切り開いて家を建て、団地を造り多くの人々がそこに移り住む…。全国各地の「ニュータウン」がそうであるように山陽団地も、働き盛りのころに入居してきた人々によって、新しい街としての歴史を誕生させたが、「ニュータウン」は居住者の年齢とともに疲れてしまったかのようにさびれて見える。
 ここに育った子供たちの多くはよその土地に出て行き、残ったのは親たちである。数十年のローンを払い手に入れた土地と建物。1から築き上げた地域社会。しかしそれらは受け継がれることはなかったのかもしれない。
 地方のとある街でありながら、全国どこにでもある歴史と問題を持っている、それが「ニュータウン」なのかもしれない。またかつては地域が一体となって協力し合っていたが、現在ではそれが壊れてしまっているという点では、日本が抱える問題を代表しているようでもある。 監督はこの映画の制作と平行して、山陽団地をテーマにしたアート展を企画・実行する。映画の終盤で描かれるこのイベントの風景は、日本が活気を取り戻すきっかけとして投げかけられているようにも感じられた。
 しかし、本来はもっと気軽な気持ちで見るべき映画なのかもしれない。

「微熱(セブン新社・刊)」04年 月号掲載

2012年7月 7日 (土)

涼風家シネマクラブ■船、山にのぼる

監督/本田孝義
2007年/日本/88分

 ダム建設と聞くと、どうも無駄な公共事業という印象になってしまうのは「脱ダム宣言」なんていうのが流行語のように広まってからだろうか。
 とはいえ確かに必要なダムもあり、新たなダム建設も行われている。
『船、山にのぼる』というなんとも不思議なタイトルのこの映画は、広島県の灰塚地域のダム建設にまつわるドキュメンタリーである。ダム建設の計画自体は40年ほど前に提示されたものだったが、水没する地域の住民による反対運動もありすぐには着工されなかった。が、水害が起こったことで住民の考えも変わり、工事が進められることになる。
 ダムによって水没する地域の住民は、新たな土地を与えられて移り住むことになるのだけれど、単に家を建て直すだけではなく、庭木にいたるまですべてを移転させる。つまり地域をそのまま移転させるというわけだ。その中で、伐採される山の木々をなにかの形にして残そうとしたのが「船」だ。
 もともとは建築家やアーティストなどを集めた「アースプロジェクト」というものの中でだされた案のひとつになるのだが、紆余曲折の末、発案者の「PHスタジオ」が中心となって計画が進められることになる。水没地のそこになる場所から、水位の上昇を利用して船を浮かし、山の上に移動させて、水位の減少によって山の上に船を乗せるというものだ。
 ダム建設の反対運動ではなく、ダム建設を受け入れた地域の記録といった趣のドキュメンタリーであるが、生まれ育った土地が湖の底に沈む住民たちにとって「船」がどういう意味を持つのか、映画はやがてそこに焦点を当てていっているように思う。正直、まったく関係のない第三者から見れば「船」になんの意味があるのかわからないかもしれない。単に伐採された材木で巨大な(船は60メートルほどある)オブジェを作ってみただけのようにも見えるのだ。
 住民にとっても最初はそうだったかもしれない。計画当初は地域住民も無関心だったからだ。けれどやがて「船」は、地域住民のなにかを象徴する存在になっていく。船が山に昇る姿をしっかりと見つめてほしい。

2012年7月 5日 (木)

涼風家シネマクラブ■愛なくして

監督/高林陽一
キャスト/藤沢 薫、木元としひろ、遠藤久仁子、栗塚 旭、浜崎麿吉、ほか

「魂のシネアスト」と呼ばれる高林陽一監督の特集上映で、16年ぶりの新作長編『愛なくして』が公開される。
 といいながら、高林監督に関してまったく予備知識があるわけではない。ないのだが、過去の作品をたどってみると、『蔵の中』『雪華葬刺し』など、個人的に好きな映画が含まれていることを知り驚いた(それ以前に監督名くらいチェックしておけって感じですか)。
 いったんは映画界からの引退も考えての沈黙だった16年の間を置いて制作された『愛なくして』は、妻を亡くしその先の人生に張り合いをなくした老人を中心にストーリーが進行する。知り合いの医者に安楽死を頼み込み、妻との思い出の場所を辿る老人。また夫に先立たれ、生前には感じることもなかった夫への思いを、その死の直前から実感し、立ち直ることができない未亡人。若くして不治の病を宣告される青年。中年男性の自殺を目撃してしまう若いカップル…。登場する人物達は、いつか来る死ではなく、いま目の前にある死と向き合う。
 タイトルの『愛なくして』も、愛を無くしたことと、愛がなければ、という二重の意味に受け取れる。
 映画は必ずしも死を肯定しているわけではない。愛するパートナーを亡くしても、思い出を胸に生きていくことを説く僧侶も登場する。そしてなによりもラストシーンに若いカップルのキスをもってきているところに、死があるからこその生を謳っているように感じられるのだ。 取り立ててドラマティックな展開があるわけでもなく、派手なアクションがあるわけでもない。見る人によっては説教臭く感じるかもしれないが、ジワっと心に染み込んでくる作品だ。
 高林監督は自主制作の8ミリ作品をかわきりに、自主制作映画と商業映画のあいだを行き来していたという。先に挙げた2作のほか、ATGの『金閣寺』『本陣殺人事件』などの代表作もある。
 今回、試写会で8ミリ時代の『石ッころ』という35分の作品も見ることができた。モノクロ、サイレントのシュールな作品だったが、イタリア・モンテカティーニ・アマチュア国際映画祭で金賞を受賞しているだけあって、記憶に残る作品だった。
『愛なくして』は高林監督がわたしたちに突きつけた死への覚悟かもしれない。

「微熱(セブン新社・刊)」04年7月号掲載

2012年7月 3日 (火)

涼風家シネマクラブ■リンダ リンダ リンダ

監督/山下敦弘
キャスト/ペ・ドゥナ、前田亜希、香椎由宇、関根史織、ほか
2005年/日本/114分

 高校の文化祭前日、軽音楽部の女生徒たちにひとつの問題が持ち上がっていたところから物語は始まる。メンバー間のトラブルで文化祭でのライブが棚上げになってしまったのだ。こじれた気持ちは解消できないまま、新しくボーカルを迎えて「ブルーハーツ」のコピーをやることに決めた3人だったが、勢いでメンバーに誘ったのは韓国からの留学生、ソンさんだった。日本語もままならない留学生をボーカルにくわえた女の子たちが、2日間でステージに立てるのか、ハラハラドキドキのストーリーが進んでいく。 個人的に高校時代に一般的な文化祭がなかったこともあって、この映画で描かれているような文化祭の雰囲気というのは、友達の学校に遊びに行ったときにしか味わっていないこともあって、一種の憧れのような感情もある。イベントに向けての準備、当日の盛り上がり、ざわついた校内…、懐かしいというよりは、いいなあという感想になってしまう。
 これまた個人的な感想で申し訳ないが自分も楽器を趣味にしているので、映画を観ているあいだ、楽器を演奏したい、歌いたいという感情が沸き上がってきて困った。
 映画はひと言でいって正統派の青春映画と言っていいだろう。4人の女の子たちが文化祭のステージという目標に向かって濃密な時間を過ごしながら、恋愛話もからめて女子高生の日常を描き出している。『ローレライ』でミステリアスな美少女を演じた香椎由宇が、ここでもイイ味を出している。
 現役の女子高生にとって「ブルーハーツ」はすでに昔のバンドだろうが、いまでも人気のある存在でもある。が、女の子のバンドがコピーするのはあまりないことだろう。そこを敢えてやってしまったのは単純に監督のアイデア。初めて曲を聴かされたソンが、自分でも気がつかないままに涙を流すのは印象的だ。
 ちょっと気になったのは間を空けるような長回しがところどころにあること。この作品に限っていえば、わざわざテンポを壊しているようで本当に必要なのか疑問に思ってしまった。でも高校生の時間を表現していたのかもしれない。

・レディースコミック「微熱」(セブン新社・刊)/05年8月号掲載

2012年6月30日 (土)

涼風家シネマクラブ■ユビサキから世界を

監督・脚本/行定 勲
キャスト/谷村美月、北乃きい、麻里也、永岡真実、上原加代子、ほか
2006年/日本/63分

 退屈な授業が続く教室。リンネに、ウタからノートの切れ端に書いたメモが回ってくる。ふとした言葉のやり取りから、リンネとその仲間3人は死ぬことを決意して、その夜、学校に集まることに。
 授業が終わり、それぞれ家に戻って集合時間までき時間を過ごす中で、ひとりひとりの思いや生活が描かれていく。
 アンダーグラフの楽曲『ユビサキから世界を』にインスパイアされて、監督が脚本を書き下ろした究極のインディペンデント映画である本作は、通常のロードショーではなく、無料上映会を全国で敢行。話題を集めた。そしてこのたびDVD発売となったのだ。
 等身大の女子高生4人が死を決意したときに見た光は、映画を観た人の中にもきっと見えるものだろう。
 連続する退屈な日常を変えるのは、小さいこと=指先からというメッセージをこめた楽曲に共感した監督が、映画の初心に戻ってインディペンデントで制作。『世界の中心で、愛をさけぶ』の監督が「映画は本来こうあるべき」という信念を打ち出した作品だ。オーディションで選ばれた女子高生役の女優たちのみずみずしい演技も見どころ。
 63分という時間に凝縮された少女たちの思いは、アナタにも思い当たるものかもしれません。

2012年6月28日 (木)

涼風家シネマクラブ■ハリヨの夏

監督・脚本/中村真夕
キャスト/於保佐代子、高良健吾、風吹ジュン、柄本 明、谷川俊太郎、ほか。
2006/日本/99分

 瑞穂は17歳の女高生。母親はライブハウスでブルースを歌い、予備校の講師をしている父親は別居中という家庭環境からか、周りの少女と比べて醒めているように見える。そんな瑞穂に惹かれている水泳部の翔。ふたりで下校するなど接点もあり、瑞穂にも気持ちはあるが、親友の片思いの相手でもあり、複雑。
 一方、ライブハウスの常連で、母のファンでもあるチャーリーというアメリカ人とも、母や妹を含めて交流が始まる。やがて両親は離婚。父には新しい家族ができる。毎年夏になると、家族旅行をしていたが、今年は父は参加せず、ライブハウスの仲間たちとの旅行になった。父のいない旅行に反発し「行かない」と言う瑞穂だったが、旅行当日に母が倒れたことから、妹の付き添いで参加することに。そこにはチャーリーもいて、彼の隠された過去に少し触れるような会話が交わされる。
 翔とのあいだでもギクシャクしていた瑞穂は、その夜チャーリーに初めての自分をゆだねていた。
 そして瑞穂は妊娠し、子供を産む決心をする。瑞穂の強い決心を母も受け入れて瑞穂は出産するのだった。
 ハリヨとは、オスが卵を守る川魚。瑞穂は父からそれを貰い、世話を続ける。映画の中では随所でハリヨの成長記録が語られ、瑞穂の成長とオーバーラップするように演出されている。
 瑞穂は愛に飢えている。家族の愛、恋人の愛、そして…。それは瑞穂自身が自分を表現することに不器用だったせいもあるかもしれない。
 ところで、この映画は90年の京都を舞台にしている。監督が京都出身とのことだが、90年に設定した意味がもうひとつわからない。
 監督の中村真夕はこれが初監督作品。脚本から自ら手がけ、時間をかけての制作で、約1時間40分の中に濃密な内容が詰め込まれているが、テンポもよく飽きることは無い。ひとりの少女の成長をじっくりと見据えた心に残る映画だ。瑞穂を演じた於保佐代子、母役の風吹ジュンそして父役の柄本 明もよかった。

「微熱(セブン新社・刊)」06年12月号掲載

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